
「AIバブルはいずれ弾ける」――2024年から繰り返し囁かれてきた警句ですが、2025年の市場はその予想を(良い意味でも悪い意味でも)裏切る形となりました。
2025年は、期待だけで全てのAI関連株が上がる狂騒的なフェーズが終わり、「実際に稼げているか」という冷静な選別が始まった年でした。一方で、2026年に向けてウォール街のアナリストたちは新たな成長ストーリーを描き始めています。
本記事では、激動の2025年の市場実績を主要な数字で振り返りつつ、Goldman SachsやMorgan Stanley、Gartnerといった主要機関が発表した2026年の市場予測を解説します。
1. 振り返り:2025年は「バブル崩壊」だったのか?
結論から言えば、2025年はバブル崩壊というよりも「実益への収斂(しゅうれん)」が進んだ年でした。市場全体のAI関連支出は約3,900億ドル(約58兆円)規模に達し1、産業としての基盤はむしろ強固になりました。
一部の「AIという名前だけで買われた」小型株が淘汰される一方で、インフラを握る巨大テック企業は、市場の懸念をよそに成長を続けました。
2. 【事実】2025年の勝者たち:数字で見る実績
2025年の株式市場において、特に注目すべきパフォーマンスを見せたのはやはり「インフラ層」の巨人たちでした。
NVIDIA (NVDA):王者の地位は揺るがず
「AIバブル論」の最大の標的とされたNVIDIAですが、終わってみればその業績は驚異的でした。 2025年後半時点でのアナリストコンセンサスは依然として「Strong Buy(強い買い)」を維持しており、目標株価は$262前後とされています23。 特筆すべきはデータセンター部門の売上高で、前年比で66%増という数字を叩き出しました4。一時は時価総額5兆ドル($5T)の壁に挑む場面もあり、需要の減退懸念を一蹴しました。
Microsoft (MSFT) & Google (GOOGL):クラウドの覇権争い
クラウドサービスの成長も加速しました。
- Microsoft: Azureの成長率は約40%を維持。巨額のAIインフラ投資(Capex)に対する懸念はありましたが、それを上回る成長ドライバーとしてAIが機能していることを証明しました5。
- Google (Alphabet): 2025年第3四半期には売上高が初の1,000億ドルを突破。クラウド部門は前年比34%増と加速しており、AI導入企業の受け皿として完全に機能しています6。
つまり、2025年は「期待」が「実績」へと変わった年であり、稼げるAI企業とそうでない企業の格差が決定づけられた年だったと言えます。
3. 【予測】2026年は「AIエージェント」の年に
では、2026年はどうなるのでしょうか? 主要アナリストのレポートから見えてくるキーワードは「エージェント」と「実装」です。
Morgan Stanleyは、2026年を「AIエージェントの年(Year of the AI Agent)」と定義しています7。 これまでのようなチャットボット(人間が質問してAIが答える)形式から、AIが自律的にタスクを完遂する「エージェント型」へのシフトが進むと予測しています。同社はこの生産性向上を背景に、S&P 500指数が2026年末までに7,800ポイントに達する可能性があると強気の見方を示しています。
これは投資家にとって、ハードウェア(チップメーカー)一辺倒だったポートフォリオから、エージェント技術を実用化するソフトウェア企業やプラットフォーマーへの分散を検討すべきシグナルかもしれません。
4. 【リスク】Gartnerが警告する「AIフリー」スキルと法的リスク
一方で、楽観論ばかりではありません。Gartnerは2026年に向けて興味深い、そして少し怖い予測を発表しています。
「AIを使わない」ことが価値になる?
Gartnerの予測によれば、2026年までに企業の50%が、採用や評価において「AIフリー(AIを使わない)」スキルのテストを導入する可能性があります8。 生成AIへの過度な依存が、人間の批判的思考力(クリティカルシンキング)を低下させることへの危機感が背景にあります。
「Death by AI」訴訟
また、AIの判断ミスや幻覚(ハルシネーション)に起因する法的トラブル、いわゆる「Death by AI」訴訟が2026年末までに2,000件を超えると予測しています9。 2026年は、AI導入企業にとって「コンプライアンス」や「ガバナンス」が株価を左右する重大なリスク要因になるでしょう。
5. 【戦略】Goldman Sachsが描くセクターローテーション
Goldman Sachsもまた、S&P 500が7,600ポイントに達すると予測していますが、その中身には変化があると見ています10。
彼らが注目しているのは「セクターローテーション」です。 これまでのようなテック企業一極集中から、AIによって生産性を劇的に向上させる「オールドエコノミー(製造業、素材産業)」へと資金が循環する可能性があります11。 「Big 5」と呼ばれる巨大テック企業の設備投資額は2026年も約4,500億ドルと巨額ですが、投資の旨味(アップサイド)は、むしろそれらを使って変革に成功した伝統的企業にあるかもしれません。
まとめ:2026年の投資戦略
2025年の実績と2026年の予測を総合すると、以下の3点が投資戦略のポイントになりそうです。
- インフラ投資は継続(Hold): NVIDIAやMicrosoftの成長は終わっていないが、2025年のような爆発力は鈍化する可能性がある。
- 「エージェント」銘柄への注目(Buy?) : 単なるチャットボットではない、自律型AIを提供する企業を探す。
- リスク管理(Watch): AI規制や訴訟リスクが高まるため、ガバナンスの弱い企業は避ける。
2026年は、AIが「魔法」から「道具」になり、社会システムに深く組み込まれる年になるでしょう。株価もまた、夢の大きさではなく、道具としての有用性と安全性をシビアに評価するフェーズに入ると予想されます。
